Asia-Pacific Region Intelligence Center
北朝鮮特使の訪中 본문
5月24日、北京の人民大会堂で北朝鮮の朝鮮人民軍の崔竜海総政治局長(左)と握手する中国の習近平国家主席
北朝鮮の朝鮮人民軍の崔竜海(チェ・リョンヘ)総政治局長が5月24日、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の特使として訪れた中国・北京で習近平国家主席と会談、6カ国協議などでの対話に前向きな姿勢を示した。「金正恩体制が挑発から対話路線に転じた」との楽観論も関係国の間で広がる中、当の北朝鮮は核開発を継続する構えを崩そうとしない。特使訪中の成果を何とかアピールしようとする中国側。これに対し、米韓メディアの見方は懐疑的だ。
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□ウォールストリート・ジャーナル・アジア版(米国)
■小さな譲歩に意味なし
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、アジア版)は5月27日、「北朝鮮が対話への希望を打ち砕く」と題する記事を掲載し、北朝鮮が対話に応じたとしても、核開発を放棄する可能性は低いとする専門家の見方を紹介した。
朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は同26日、「核抑止力は決して何かを得るための取引物ではない。自衛的核抑止力を各方面から強化することは、わが方の確固不動の戦略的路線である」と核開発の継続を強調する論評を掲載した。WSJは、この論評について「孤立した国家(北朝鮮)が中国の圧力を受けて核計画の協議に応じるかもしれないというわずかな希望に、北朝鮮の国営メディアが冷や水を浴びせた」と述べた。
記事は、朝鮮人民軍の崔竜海総政治局長が中国の習近平国家主席との会談で対話に応じる旨の発言をしたことが、北朝鮮国内では報じられていないと指摘。専門家らの見方として、中国国内の報道との違いは、核開発をめぐる「北京と平壌の緊張」を反映したものだとした。
記事では、北朝鮮との対話の見通しについて、ソウルの国民大学のアンドレイ・ランコフ教授が「北朝鮮は(中国に対し)進んで小さな譲歩をし、さらに当面の間、おとなしくしていることに合意するかもしれない。だが、核問題は交渉できるものではない。北朝鮮は核保有国であり、(将来も)そうあり続けるだろう」と述べたことを紹介。また、高麗大学の柳何烈(ユ・ホヨル)教授の分析として、北朝鮮は中国からの援助やエネルギー支援を維持するため、ある種の2国間協議に応じる姿勢を見せるかもしれないが、そうした姿勢にはほとんど意味がない、とした。
さらに、北朝鮮の国防委員会の報道官が韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領を名指しで非難したことも「南北間の和解の見通しが引き続き暗いことを示唆している」とし、協議の進展に懐疑的な見方を示した。(田中靖人)
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□新京報(中国)
■対外政策上、最も正しい選択だ
金正恩第1書記の特使を派遣した北朝鮮が、習近平国家主席らの呼びかけに応じる形で対話に前向きな姿勢を示したことで、中国はメンツを保った。中国メディアはおおむね特使訪問を好意的にとらえている。
北京の有力紙、新京報は5月24日付で、社会科学院アジア太平洋研究所の北朝鮮問題専門家、王俊生研究員の論文を掲載した。王氏は「北朝鮮の軍・政治の重要人物の訪中は、中朝関係に出現した“亀裂”の修復以上の意味を持つ」と分析。昨年12月の長距離弾道ミサイル発射以降続いた、北朝鮮による挑発行為を「激烈で刺激的な行為」と非難した上で、今回の訪中を「対外政策上、最も正しい選択」と評価した。
王氏は、北朝鮮が強硬姿勢を崩さない間に「米中韓の対北朝鮮政策が一致する度合いが増大」し、こうした事情が金第1書記の特使派遣の背景にはあると指摘。5月の朴槿恵・韓国大統領の訪米や、今後予定される習主席の訪米と朴大統領の訪中を挙げ、「北朝鮮はできる限り早期に中国との意思疎通や協調を回復・強化」する必要などに迫られたとの見方を示した。
中国が北朝鮮に軟化を促すサインを送り続けたことも、特使の訪中につながったというのが中国側の認識だ。王氏は「カギとなるこの時期に、高位の特使が訪中したことは、これまでの一連の行為が適切でなかったことを(北朝鮮が)黙認したに等しく、過去に北朝鮮が愚かにもたくらんだ『中国の鼻を引っ張って進む』というモデルが、今回の危機では通用しないと宣言したも同然だ」と、中国側の功績を誇示する。
もっとも、中国も北朝鮮の言葉をうのみにしているわけではなさそうだ。論文では「核兵器によって安全が保たれるという思想は変えねばならない。この種の思想の本質は冷戦思想に属する。核保有は自らをさらに孤立させる」「北朝鮮が過去の誤った選択を堅持するなら、中国も北朝鮮側に立ち続けることは不可能だ」と警告することも忘れていない。(北京 川越一)
□東亜日報(韓国)
■核開発の時間稼ぎにすぎない
北朝鮮の金正恩第1書記が側近の崔竜海・朝鮮人民軍総政治局長を特使として中国に送り込み、国際社会に譲歩するような姿勢を見せたことについて、韓国メディアは額面通りには受け取っていない。北朝鮮の「核放棄の意思」に強い不信感と警戒心を示している。
有力紙、東亜日報は「北朝鮮は国際社会の非核化ゲームのルールが変わったことを認識すべきだ」とする社説(5月28日付)で、崔氏の訪中に関し「国際社会が北朝鮮の核問題に共同対処したことでやむを得ず対話に応じるふりをした」と分析、国際圧力の有効性に一定の評価を与えた。
ただ、「(核放棄をしないという北朝鮮の)本心が変わったとみることはできない」と指摘。今後も「韓国と中国、米国が先頭に立ち、日本、ロシアも非核化という共同目標を持って、北朝鮮を圧迫する戦線を固める必要がある」と主張している。
社説はまた、「習近平国家主席ら中国指導部が崔氏に非核化を迫ったものの、崔氏は非核化の『非』の字も口にしなかった」とし、「朝鮮半島の平和と安定に向けた対話に応じる」とした崔氏の言葉には「まじめさがまったく感じられない」と批判。対話姿勢は本物ではなく、「核開発のための時間稼ぎだ」と断じている。
北朝鮮によって閉鎖された南北共同事業の「開城(ケソン)工業団地」問題が長期化する韓国では、対北政策に行き詰まりを感じている。朴槿恵大統領も自身の問題解決能力や指導力に傷がつきかねない。北朝鮮をめぐる安全保障環境の改善がなかなか進まない閉塞(へいそく)感に韓国社会が包まれる中、中国の姿勢に“疑念”を隠さない論調も出てきた。
朝鮮日報は25日付社説で、中国の対北政策について「北朝鮮の政権が揺らぐことがあってはならないという原則を変えていない」と指摘。その上で、「(中国が)単に緊張緩和を目的に対話の仲裁に乗り出すなら、昔に逆戻りするだけだ」とクギを刺している。(ソウル 加藤達也)
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